今回は、電源精度について取り上げます。
FPGA/ CPLD に供給する電源を皆さんが設計した後、でき上がってきたボードを手に取り、電源が設計通り出力されているか実機で確認すると思います。そのとき、さすがにピッタリ設計通りの電圧を観測できることなんて、あまりないと思います。
・まぁ、多少ずれても仕方がない。でも、どこまでずれていいの?
・FPGA 側の仕様は?
・電源側の仕様は?
今回は、そんな疑問に答えていきたいと思います。
電源精度って何?
例えば、電源IC の出力が 1.1Vだったとします。設計上は 1.1V でも、実機で測ってみるとその値はピッタリ1.1V であることなんてまずありません。それが 1.0V かもしれないし、1.2V かもしれません。そこは電源IC のスペックに依存しますが、個体差も含め 何% 以内の出力電圧を出すか、その指標は精度と呼ばれています。FPGA は電源ライン別に供給電圧の精度に関する推奨条件が定められています。
ここからは、Cyclone® V FPGA を例に、話を進めていこうと思います。まずは、コア電源に必要な精度がどの程度なのかを確認してみましょう。
Cyclone® V FPGA のピン接続ガイドライン
上図は Cyclone® V FPGA のピン接続ガイドライン の抜粋です。各電源ラインに必要な電圧は、Voltage Level (V) 欄に記載されています。さらにそこに必要な精度は、Supply Tolerance 欄に書かれています。Cyclone® V FPGA の VCC(コア電源)は ±30mV で、それ以外は ±5% 精度の電源を要求していることがわかります。±5% ならまだしも、±30mV は結構厳しそうです。例えばですが、 1A 品でよく使われている EN5311 でも ±30mV に収めることができるのでしょうか?
以下に必要な要素別に順を追って検討します。まずは Cyclone® V FPGA の VCC の要求精度が 1.1V±30mV なので、それを以下のように図でまとめました。
Vcc 電圧の要求精度イメージ
FPGA の要求精度がわかったので、次に電源 IC の出力がこの規定値内に収まるかどうか確認します。
電源 IC の精度ってどうやって確認するの?(VID mode)
EN5311 のデータシートを確認してみると、以下の表が記載されています。
PARAMETER
|
SYMBOL
|
TEST CONDITIONS
|
MIN
|
TYP
|
MAX
|
UNITS
|
Vout initial Accuracy
(VID) |
Vout
|
2.4V ≤ Vin ≤ 5.5V, Iload = 100mA;
Ta = 25℃ |
-2.0
|
-
|
+2.0
|
%
|
Vout Variation for all
Causes(VID) |
Vout
|
2.4V ≤ Vin ≤ 5.5V,Iload = 0-1A,
Ta = -40℃ to +85℃ |
-3.0
|
-
|
+3.0
|
%
|
Feedback Pin Voltage
|
Vfb
|
2.4V ≤ Vin ≤ 6.6V, Iload = 100mA
Ta = 25℃; VSO=VS1=VS2=1 |
0.591
|
0.603
|
0.615
|
V
|
Feedback Pin Voltage
|
Vfb
|
2.4V ≤ Vin ≤ 6.6V, Iload = 0-1A,
Ta = -40℃ to +85℃; VSO=VS1=VS2=1 |
0.585
|
0.603
|
0.621
|
V
|
Symbol 欄には Vout と Vfb の 2 種類の記載があります。Vout は EN5311 が VID mode における出力精度で、Vfb は Vfb mode における出力精度です。Vout / Vfb にそれぞれ 2 種類の記載があります。違いは Test Condition です。まずは、VID mode における違いについて考えます。
±2% 精度の場合 : Ta = 25℃ / Iload = 100mA
±3% 精度の場合 : -40℃ < Ta < 80℃ / 0A < Iload < 1A
Ta はデバイスの周囲温度で、Iload は出力電流です。見るとわかる通り、精度が良い場合は、Test Condition がかなり限定的です。実機での動作を考えると Test Condition が -40℃ < Ta < 80℃ / 0A < Iload < 1A の場合で検討した方が現実的です。よって、電源の精度を確認する場合は、推奨条件範囲内でいかなる状態であっても、保証されている精度は何なのかを意識する必要があります。
ついでに、Vfb (Vfb mode)も見てみましょう。
±2% 精度の場合 : Ta = 25℃ / Iload = 100mA
±3% 精度の場合 : -40℃ < Ta < 80℃ / 0A < Iload < 1A
Vfb も Vout と考え方は基本的に同じです。Test Condition -40℃ < Ta < 80℃ / 0A < Iload < 1A を参考にしてください。よって実動作を考えると ±3% で考えてください。但し Vfb mode はこれだけでは終わりません。他にも検討しなければならない要素がありますが、とりあえず、ここまでのイメージを図示すると以下のようになります。
1.1V における EN5311 精度 3% イメージ
あれ?±3% 精度で考えると、±30mV を超えてしまいますね。これではFPGA の要求精度を満たすことができません。実は Enpirion® でEN53**もしくは EP53** から始まるシリーズは全て ±3% 精度のため、1.1V±30mV を要求される電源ラインでは対応ができません。そのため、Cyclone® V FPGA のようにコアやトランシーバ用の電源にこのレベルの精度が必要な場合、EN53**/EP53**を推奨していません。
では、前述にある±5% 精度の電源に関してはどうなのでしょうか?例えば、IO 用の電源が2.5V だったとすると要求精度は±5% ですので、Max:2.625V/ Min:2.375V になります。図にすると以下のようになります。そこに、EN53**の精度 ±3% も入れて見た結果、Cyclone® V FPGA の要求精度である ±5%の ±125mV に入ることがわかりました。
2.5V における EN5311 精度 3% イメージ
あとは何を確認すればいいの?
電源の精度が FPGA の要求仕様に入っていることが確認できたら、次は電源のリップルをデータシートで確認してください。EN5311 のデータシートを確認したところ、以下の情報がありました。
リップル波形
5Vin/ 1.2Vout なので今回のターゲットとは異なりますが、取り急ぎこの値を参考にします。±2mV のようなので、これを先ほどの精度に加算し、FPGA の要求仕様を満たすか確認します。
電源精度 Total イメージ
確認すると、±77mV となっていることがわかりました。FPGA の要求は±125mVなので、要求を満たしていることがわかります。要求精度±5% のところであれば、EN5311 で対応できる事がわかりました。±5% 要求精度の場合は、EN5311 を検討してください。なお、1A 以上の電流が必要な場合は、EN53 から始まる別のシリーズを検討してください。同じく、±5% 精度に対して要求を満たすデバイスのラインナップがあります。
いかがでしたか?
・FPGA に必要な電源の精度をどうやって調べるのか?
・そこに収めるための電源をどうやって選べばいいのか?
・具体的にどうやって算出すればいいのか?
が理解できたと思います。更にEnpirion® のEN53**シリーズは±3% 精度なので、FPGAの IOや PLL 用電源として±5% 以内の精度を要求する電源ラインに最適であることが分かりました。
次の『電源の精度って何?(後編)』では、FPGA のコアやトランシーバに対応するEnpirion® のデバイスについて触れたいと思います。
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超初心者向けのアナログ回路 Enpirion® 編 第2回 FPGA の消費電力は?
超初心者向けのアナログ回路 Enpirion® 編 第3回 電源の精度って何?(前編)
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